株式会社スピンラボ:歩く“ディスカウンター”になってはいけない

顧客の利益を説明する事が販売への成功の道。

雑誌掲載記事

第2回「歩く“ディスカウンター”になってはいけない」

今回はSPINの全体像を紹介する。高額・複雑な商談は小型・単純な商談とは根本から性格が異なる。 説得する商談でなく、継続と信頼関係がベースとなる。相手の潜在ニーズを適切な質問で顕在化させることが商談獲得のカギだ。

高額・複雑な商談には、一般の商談とは異なり、次のような特徴がある。

●商談サイクルが長い:1回の訪問では完結しない。つまり何回も訪問を続け、商談を徐々に進展させる必要がある。2回目、3回目のアポが取れなければ高額・複雑な商談は成立しない。

●多くの人との面談が必要:「大型案件を成功させるまでに何人と名刺交換をしたか」と、質問すると多いケ−スで100枚との答えが帰ってくる。窓口担当者、検討部署の責任者、エンドユ−ザ−、購買担当者、トップマネジメントなど様々な立場の人との面談が必要となる。

●顧客のビジネスに大きな影響を与える:導入してもらった商品やシステムが予定通り順調に稼動すれば、顧客の業績向上につながるし、失敗すれば反対の結果となる。

●商談後のフォローがさらに重要:高額・複雑な商談では納入後のフォロ−が一番重要と言われている。というのは、必ずその次のビジネスが待っているからだ。もちろん、納入したシステムが成功しなくては次につながらない。

継続と信頼関係が基本

こうした高額・複雑な商談の特性を考えると、1回の訪問で決着できる小型・単純な商談と根本から異なっていることが理解できるだろう。説得する商談でなく、継続と信頼関係がベ−スとなる商談と言い換えてもよい。

顧客との継続的な取引と信頼関係を維持するためには、営業は顧客に対する質問技術、顧客が語る内容を理解する知識(特に業務知識)、顧客の購買意欲が増大する説明技術、の三つが必要とされている。これを身に付けるため、SPINは四つの質問、二つのニーズ、三つの説明事項、の計九つのパーツから構成されている(下図)。
SPIN技法の基本的モデル
まず四つの質問からみよう。SPINの名前はこの四つの質問の頭文字をとっている。

状況質問(Situation Questions)
問題質問(Problem Questions)
示唆質問(Implication Questions)
解決質問(Need-payoff Questions)


である。
信頼関係を得るための第一歩は、この四つの質問を使い分け、顧客に大いに語ってもらうことだ。それには聞き上手になることで、しゃべりすぎる営業スタイルでは効果を発揮できない。

二つのニ−ズを説明する前に「顧客はなぜモノを買うのか」にふれる。図4に示すように買い手は「感じている問題の大きさ」と「支払う対価」を秤にかけ「感じている問題の大きさ」が大きければ購入するし、逆に「支払う対価」の方が大きければ買わない。
ということは「支払う対価」は決まっているので「感じる問題の大きさ」に焦点を当てた商談進行がキ−となるわけだ。特にサ−ビスの販売はハードの販売と異なり、ここが最重要ポイントとなる。ハ−ドのように商品の価値と値段を購入者がほぼ理解している商品と違い、サ−ビスには絶対的な価値観がない。そのサ−ビスを受ける人によっても、受けるタイミングによっても、サ−ビスの価値は大きく変動するからだ。

価値を認めてもらう努力とは何か

例えば、あるサ−ビスの料金を100万円に設定して販売を開始してみると、A社は100万円で納得してくれるのに、B社は10万円の価値でしか認めてくれない、ことがある。 ヘルプデスク・サ−ビスを例に取って説明しよう。会社の中で、パソコン操作が分からなくなった人が操作を教えてもらうとか、ネットワ−クの調子が悪いので修復してもらう、ことがサ−ビスの価値である。A社の場合、パソコン操作で仕事が止まっている社員の無駄な人件費、資料作成が遅れることに派生する問題点、ネットワ−クが落ちた時に社内で起こる被害などの大きさを十分に理解しているので「100万円の価値がある」と認識してくれる。
B社は月に10回か20回の問い合わせをするだけなので「10万円でも高い」と感じている。つまり、B社はサ−ビスの価格だけで判断しているのだ。だからB社担当の営業は、発生した障害がB社内でいかにマイナスになっているかを顧客に認識してもらって、B社におけるヘルプデスクの価値を認めてもらう努力が必要となる。 「支払う対価」だけで勝負する営業は、顧客の抱える問題には興味をもたない。よって顧客からの「高いね」の発言を聞いた瞬間、会社に帰ってから上司にどのように値引きの件を相談するかだけを考える。このスタイルの営業は永久に「出入りの業者」から脱皮できない。この営業スタイルを別名「歩くディスカウンタ−」と呼ばれている。

潜在ニ−ズと顕在ニ−ズ

商談の成功と顧客のニーズにも密着な関係がある。このためSPINはニ−ズを潜在ニ−ズと顕在ニ−ズの二つのタイプに区分している。
潜在ニ−ズとは「買い手が持っている不完全な状況・問題・不満」を語った内容。

例えば
(1)現在のシステムではこの問題に対処できない
(2)処理スピードが遅い
(3)トラブルが多くて困る

などである。潜在ニーズのポイントは、単なる不満であって、それを解決したいという強い意志のない段階での発言である。
一般に小額・単純な商品の販売においては潜在ニーズの数が商談成功に比例するようだ。 顕在ニ−ズは「買い手が問題を明確に認識した結果、生まれる解決への願望・意志」の発言である。

例えば
(1)処理速度の早いシステムが必要だ
(2)信頼度の高い機械を探している
(3)バックアップ機能があればいいのだが

などだ。明らかに買い手は、具体的な対策を打ちたいという意志がうかがえる。高額・複雑な商品は顕在ニーズと大きな関係がある。 このため売り手は、この二つのニ−ズを聞き分ける力を身に付け、顧客が顕在ニ−ズを発言するように商談をリ−ドしなくてはならない。 SPINの最後のステップは、効果的な商品説明となる。商品の機能や特徴だけをダラダラ並べても顧客の購入意欲は起こらない。機能や特徴はカタログをみれば全部書いてあるのだから、改めて説明を受けても興味はわかない。 売り手は四つの質問を通じて顧客の抱えている問題点を十分理解しているのだから、提案する商品がいかに顧客にとって有効であるか、顧客の問題をどのように解決し、どれだけの価値になるかを説明しなくてはいけない。つまり顧客の利益を説明することが、販売成功の道になる。

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